正距方位図法という投影法(上の地図)は地球に対してどのように光を当てると映し出されるでしょうか?
「地図投影は丸い地球を平面のスクリーンに光を当てて映し出された影です。」という説明が誤りだと知ったのは 2011年と社会人になってからでした。
最近、座標参照系に関する教育資料を作成しているので、投影の真意を紹介します。
投影法の投影はプロジェクターを想像してはいけない
元国土地理院の政春尋志氏著書の『地図投影法 -地理空間情報の技法』(2011) P4 に以下の記述があります。
column1 地図投影は「投影」ではない!?
「地図投影」という言葉のせいで、地図投影を文字通り「投影」と結びつけて理解しようとする傾向が非常に強いようだ。しかし、地図投影法にさまざまな種類があることを知るとそれらのほとんどは「投影」では作れないことがわかる。地球に円筒を巻き付けて地球の中心と地球表面上の点を直線で結んで円筒面と交わる点に投射するとメルカトル図法が得られるという間違った説明をしている本が多くあるが、これなども「投影」という考え方にひきづられ他ことがその一つの原因かもしれない。それでは、はじめて地図投影を考えた人は丸い地球を平面に表す方法として「投影」を考えたのだろうか。確かに幾何学の問題としては、球の中心から平面に投影する心射図法や、球面上の点から中心を挟んで反対側の点で球に接する平面に投射する平射図法などがすでに紀元前から古代ギリシャで知られていたが、これらを地図を表すために用いたという証拠はない。丸い地球をできるだけひずみなく平面に表そうと努力して地図投影法を案出したプトレマイオス(紀元2世紀)の地図投影法は「投影」によるものではなかった。このように歴史的起源に着いてみても、地図投影は「投影」ではないのである。地図投影は一つの専門用語として「(地図)投影」というのだと理解すべきである。これを文字通りの「投影」と連関させて理解することからは早く脱却したほうが良い。
地図投影 (map projection) の project がプロジェクターの投影をイメージしてしまうので「光を当てて」と説明しがちですが、実際直進する光をスクリーンに当てて映し出される影がそれと一致する投影法はごく一部です。
高校の地理ではどのように説明していたのか
私がはじめて投影法を習ったのは高校の地理Bですが、改めて高校の地理では投影法をどのように説明していたのか、昔の資料集を読み返してみました。
東京法令(とうほう)の『'99 地理資料B』(1999) P29 には以下のように書かれていました(注:実際高校で使っていた資料集は '97 地理資料B で、自宅に現存するものは大学時代に入手したものです)。
円筒図法 地球(地球儀)に円筒を接するようにかぶせ、地球上の経緯線網をなんらかの方法で円筒面に投影したもの。
一方、帝国書院の『新詳地理資料 最新版 COMPLETE』(2003) P188 にはこのように書かれています(注:これも大学時代に入手したもので高校時代に使っていたものではありません)。
円筒図法 赤道で地球に接する円筒面に投影する図法で、経線と緯線がたがいに直交する。両極地方は著しく拡大されるが、図が四角形のため見やすい。この図法のうち、正角であるものをメルカトル図法とよび、等角航路が直線で示されるため、航海図として使われてきた。
円筒を赤道に平行においた形で投影したUTM図法* は、中央経線付近の歪みが小さいため、各国の地形図の図法として採用されている。*UTM図法:ユニバーサル横メルカトル図法のこと
比較できたのは 2社だけで 10年以上前の古い書籍ですが、説明の仕方が異なっていました。
東京法令の資料集では、きちんと「心射円筒図法」と書かれています。「光を当てて」という文書や図はなく、「何らかの方法」という形で高校生には難しい説明を省略しています。一方の帝国書院も文書で「光を当てて」という記載はないものの、写真でそれを示しています。解説中の地図は心射円筒図法で描かれているものの投影法の名称が書かれておらず、文中の説明では太字でメルカトル図法と書かれています。これは前提知識がない人が読むとかなり誤解されそうです。さらに、心射円筒図法に描かれた円が等距離線だとすると、それは誤りです。心射円筒図法では緯度40度を超えると円はかなりゆがみます。
高校の時に心射円筒図法という投影法を習った記憶はありませんが、資料集には書かれていたのですね。
ちなみに、心射円筒図法とメルカトル図法との違いはこちらの記事で説明しています。
UTM図法もよく地球に円筒を横にかぶせて回した図で説明するものをよく見かけますが、これも球の中心から光を当てて円筒に映し出された影では横メルカトル図法にはなりません。仮に光を出すなら直進ではなく屈折させなければなりません。
ではどうやって説明すればいいの?
地図投影とは、地球をモデル化した球や回転楕円体の経緯度を何らかの計算方法によって平面の座標に換算することです。「平面のスクリーンに光を当てて映し出された影」という説明をよく聞きますが、実はその説明はほとんどの投影法では間違いなんですよね、特に地理で習ったメルカトル図法では。よく見かける円筒図法のモデルで投影するとメルカトル図法ではなく心射円筒図法という投影になります。そういえば、Google Maps は 2018年8月上旬から外射図法で表示できるモードが既定値として追加されました。外射図法は有限の距離から光を当てた影と説明ができます。
と最近は小話を入れつつ説明しています。
『地理情報科学事典』では同、政春氏の記述で以下のように記載されています。
地球上の経緯度で表される位置を平面上の座標に対応させる規則を定める。
投影法によって投影された地図の座標値は経緯度ではなく「原点からの距離」で、日本で使われる地図の単位はメートルです。原点の場所は投影法によって様々です。紙地図やソフトウェア上で経緯度が示されている場合がありますが、あれは投影座標系の座標値だと地球上の場所を直感的に理解しにくいので、投影座標系の座標値を再度経緯度に換算しなおしているに過ぎません。国土地理院発行の2万5千分1地形図は経緯度で記載されていますが、1万分1地形図は経緯度に加えて平面直角座標系の座標値が km 単位で記載されています(投影法は UTM 第53帯と書かれています)。
政春氏の書籍でも指摘されているように、専門書でも投影法に関する解説で「光を当てて」と解説しているものは数多くあります。私自身も過去の講座やセッションでそのような説明をしてきました。知らないって怖いですね。