今日から 3日間、地理空間情報技術講座(第4回)に参加しています。改めて空間情報のモデリング技法について学んでいるのですが、講義の中でラスター データの位置合わせに関して初めて聞いた用語があったので紹介します。
ジオリファレンスすることを「見当」という
講義中にラスターの位置合わせ(ジオリファレンス)を操作する場面でこのようなお話がありました。
ラスターの位置合わせを行う際に登録する画像座標と現実世界の座標を一致させることを "registration" といい、その参照点を "regitration point" や "control point というが、これに該当する訳語が流通しておらずカタカナ語のまま使われることが多いが、あえて訳すなら「見当」というのが妥当だと思う。
「見当」とは「見当がつかない」の用法で出てくる見当です。「検討する」の「検討」とは異なり、見当は版画(浮世絵)で多色刷りを行うための位置合わせ指標があわせられないことに由来します。
見当 (registration mark) は、版画の印刷の際に、紙を版に対して正確な位置に置くために版面に付ける印のことをいいます。特に多版を使用した作品を制作する場合に見当は欠かせないものであり、その精度次第で作品の出来上がりを左右する重要なものです。(武蔵野美術大学 Webサイトより引用)
類似の用語で写真測量の分野で使われる「標定」がありますが、この英文は "orientation" で、「標定点」は "orientation point" といいます。そのため "registration" の訳語として「標定」は違うとのことです。講師の先生が調べられたところ、版画の分野で使われている「見当」の英文が "registration mark" だったので がこれが妥当だろうと結論に至ったとのことです。ただし「見当」という言葉はほとんど流通していないので「位置合わせ」と意訳するのが良いだろうとも話されていました。出典まで伺えなかったのですが、GHQ の統治時代の測量関係の資料で "registration" を「見当」としているものもあったので以前から写真測量の分野でも使われている日本語であり、間違いではないだろうと。「登録」と直訳するのは誤りだろう、ということでした。
私は今回の講義ではじめて「見当」という用語を知ったのですが、帰宅して地理情報科学関連で解説されたものがないか参考書を調べたところ、地図学用語辞典に記載がありました。
けんとう 見当 register
多色刷・両面刷等の際における各印刷班の版合せ関係位置をいう。位置を合わせるために、原図・原板にレジスターマークをつけておく。また、製本等では折りたたんだ際、各ページの外形、ノンブル(ページ番号)等が表裏一致するようレジスターマークをつける。製版作業における高精度の見当にはレジスターパンチシステムを使用する。
地図学用語辞典[増補改訂版](日本国際地図学会 編)P80 より引用
温故知新。
ArcGIS ヘルプの記述
このお話を聞くと ArcGIS ヘルプの訳語が気になります。ArcGIS Pro ヘルプでラスターの位置合わせというとジオリファレンスでおなじみですが、原文(※日本語が表示されら右上の言語一覧から English を選択してください)ここでは "registration" という言葉がいくつかあり、邦訳には「位置合わせ」が使われていました。
ArcGIS Pro ヘルプの英語版を見ると、"control point" と "registration point" と二種類の使われ方があり、ジオリファレンス ツール、アジャスト、「幾何補正 (Warp) 」ツールでは "control point" が使われていますが、「ラスターの位置合わせ (Register Raster)」ツールでは "registrtion point" が使われています。ただし、"control point" に対して "registration" するという説明も書かれています。
ArcMap にはデジタイザーでデジタイズするための機能がありますが、その説明では "register" となっています(ただし訳語は「登録」)。今は ArcMap や ArcGIS Pro 上で位置座標が着いていないラスター レイヤーに位置情報を付与する操作をジオリファレンスといいますが、昔はデジタイザーに紙地図を貼り付けてティックを登録して位置合わせを行っていました。これがまさに "registration" であり「見当」なのですね。
※注:ここでは points も point と表現しています。
ラスターの位置合わせを見当というなんて見当もつきませんでした。