テロップは台詞と関係ありません(笑)。
今週日曜日(11月12日)に映画シン・ゴジラが地上波初放送となります。昨年の劇場公開では興行も大成功し、いろいろ語り尽くされましたが、地図や GIS に触れられた内容はまだ少ない印象です。
劇中のシーンで結構地図や GIS が登場しているので、地上波の映画を見る予行として確認してみます(一部ネタバレあり)。
ゴジラ第二形態の「蒲田くん」の移動軌跡をマッピング
序盤ゴジラが東京都蒲田の呑川から上陸してきます。品川まで駆け回った後、海に戻って一旦終了。その後で巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)が編成されますが、巨大不明生物(劇中決して怪獣とは言われない)についてあれこれ調べるシーン。
ゴジラ(後に命名されます)に GPS ロガーが取り付けられている訳ではないので、誰かが GIS ソフトに入力してマッピングしていることが考えられます。
ここで、ゴジラの動力源が何か疑問に思われ解明していきます。放射線モニタリングで観測値が微増していることが判明し、放射線量の多い地域がゴジラの軌跡と一致することからゴジラが放射線を出していることが分かり、核エネルギーに関係している因果関係を究明します。オーバーレイ解析の一例です。
「尾頭さんの仮説が正しかったわけだ。」
「ごめんなさい。」
第四形態ゴジラ、鎌倉に上陸
後日、ゴジラが鎌倉由比ヶ浜から再上陸します。
台風の進路予測のごとく、ゴジラの進行予測をマッピングしています。
タバ作戦:市ヶ谷(防衛省)の司令部
ゴジラの進行を阻止すべく、自衛隊が多摩川・武蔵小杉で迎え撃つ「B-2作戦」。紙地図上に兵科記号が置かれています。兵科記号は部隊の種類や規模を容易に理解するためにシンボル化したものです。模式図として部隊構成を表現したり、地図上に表現して部隊の配備状況を示します。もちろん ArcGIS でも対応していて MIL-STD-2525C に対応したシンボルが使えるセットが用意されています。
作戦図には 1km の格子と数値が書かれていますが、自衛隊で使われる地図に 2桁の数字が 2組書かれていたら、それは MGRS です。「50 48」は 54SUE5048 というコードの略です(ArcGIS Online マップ ビューアーにある [住所または場所の検索] に入力してみてください)。この場所は八王子駅の北に該当しますが、下の地図は川崎市の生田浄水場付近でコードと場所が一致していません。この場所で該当する他の座標値やコードは見つからなかったので、グリッドコードの割り当てが誤りだと考えます。私も今回 ArcMap でちゃんと調べて判明したのですが、このマニアックな部分に突っ込んだ人は何人いるのだろうか。
... ∞ は航空小隊(固定翼機)を示す記号なので、劇中に登場した F-2支援戦闘機 2個小隊ということですね。
実際に陸上自衛隊で使用される地形図(陸上自衛隊は地理情報隊という独自に地図調製する部隊を持っています)では、MGRS の XY座標を X軸 Y軸それぞれ2桁、合計4桁で表して 1km四方が特定できるようになっています。1:50,000 の地形図であれば、格子の間隔は 2cm となり、1cm が 500m として距離が計測できるのです。上のシーンでいうと「5048」は「54SUE5048」となります。ArcGIS Online のマップ ビューアーを表示して住所検索に左記のコードを入力するとこのような結果になります。
実際の「5048」は八王子駅北だということが分かりました。映画で出た「5048」の場所は神奈川県川崎市の長沢浄水場付近と読み取れるので、
リアルな場所と違うじゃん
多摩川浅間神社境内 指揮所
戦闘ヘリの攻撃ではだめだったので、戦車や特科で迎え撃つシーン。前線の指揮所でもパソコン開いていろいろ入力・分析らしきことをしています。
他の映画やドラマも含めて、この手のシーンで画面に地図がおもいっきり表示されているのに、皆マウスは使わずキーボードしか叩いてないのが不思議です。 ARC/INFO コマンドでも打っているのだろうか Python ウィンドウから ArcPy でジオプロのコマンドも打っているのだろうか(ARC/INFO コマンドはいい加減古いので今っぽく文言を変更しました)。
市ヶ谷のシーンも同様ですが、陸上自衛隊では大型スクリーンにプロジェクターでパソコンのモニターを投影しようが、必ず紙地図を手前に展開します(機械は信用できないから)。このような作戦で使う大きな地図を砂盤といいます。昔は砂遊びのごとく外で本当に砂とか土で作戦模型を作っていたことに由来しますが、今でも砂で作ること場合があるそうです。
ゴジラ目黒区に進入、がんばる航測会社
多摩川の防衛ラインは突破され、都心へと近づいてくるゴジラですが、そんな中、株式会社パスコさんの本社が入っている東山ビルは煌々と明かりがついています。航測会社は災害時が踏ん張りどころなので、こんな時だからこそ頑張っているのでしょう。
ちなみに劇中の都市 3D モデル作成などでアジア航測さんが協力されています。昨年 G空間EXPO のブースでも PR されてましたね。
米軍機による爆弾投下範囲
日本国政府が手をこまねいているので、米軍が在日大使館を保護する目的で爆撃機をグァムから発進させます。爆撃予定範囲を示した地図が都庁の職員に配布されます。ポイントから作成したバッファーが折り重なっています。円を重ねただけだとごちゃごちゃするので、ディゾルブしてまとめるとか、ラスター化して加重合計して濃淡で表現した方がより分かりやすいです。
「こんなに広いのか。」
ヤシオリ作戦
ゴジラとの最終決戦で、血液凝固剤をゴジラに注入するべく奮闘するシーン。ゴジラは放射性物質を出しているので、防護服を着て放射線量を確認しながら指揮をとっています。放射線モニタリングポストで計測されたサンプル値(点)からその範囲内の値を面的に推測していますが、これを内挿(内挿解析)といいます。
まとめ
ということで、随所に地図や GIS が登場しています。
このような未曾有の巨大災害で GIS を活用するにはそれなりに経験値が必要だと思うけど、劇中ではコンスタンスに分析して解析結果を出したり、作戦を立てたりしています。巨災対のチーム メンバーは烏合の衆とはいえ、テロップを読むと総合職(いわゆるキャリアと呼ばれる官僚)が中心になっており、しかも官僚自身が分析して答えを導いています。日本国政府だと、実際に分析するとか手を動かすのは官僚ではなく外注するか、がんばって一般職(いわゆるノンキャリ)が作業するのが現実なので、劇中の国の官僚は相当すごいです。政府職員の技術力を養うのにどれくらい力を注いでるのか気になります。
あと、米軍提供の地図は仕方ないにしても、コンピューター上に表示されている地図の注記がすべて英語なところが気になりました。
そして、矢口官房副長官の言葉が印象的でした。
諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう
この言葉はいろんな意味で考えさせられます。
ゴジラが巨大災害もしくは国外からの脅威と仮定すると、これがまさに政府が取り組むべき GEOINT なのでしょう。
そんなシン・ゴジラは 2017年11月12日(日)テレビ朝日系列で夜9時から地上波初放送。
伊福部明氏の曲に、鷺巣史郎氏のエヴァ曲(Decisive Battle)。
画像は映画シン・ゴジラより引用