マイレージの記事だと思ってやってきた人はすみません、スターアライアンスとかワンワールドといったお話ではありません。この記事はマイレージの由来である距離単位としてのマイルに関するお話です。
はじめに
以前とある教育で
ArcGIS のフィールド演算の学習として、空港間のラインに書かれている属性値をマイルからメートルに変換しましょう。
という実習を行いました。テキストには備考として「1マイルは 1609メートルです。」と書かれていました。
実習の意図としては「 !メートルフィールド! = !マイル フィールド! * 係数」という入力操作を期待したものでした。
すると、とある受講生からこんな指摘をされました。
空港間の距離を測るマイルなら陸マイルじゃなくて海マイルじゃないの?
たしかに。
飛行機は船舶が由来なのでいろいろ海のルールを継承しています。航空機は船舶同様に右側通行だし、夜になると翼の左右の端に進行方向を向いて右に緑、左に赤のランプを点灯させますが、これも船のルールと同じです。飛行機のタラップはほぼ必ず左につけますが、これも船の左舷 = "Port" に由来するものです。なので航空関連の距離計測も船舶の距離計測に準拠しています。
ということで、今回はマイルについて考えてみます。
マイルの種類
マイルは大きく分けて「陸マイル」と「海マイル」があります。
陸マイル
陸マイルには2種類あります。通常陸マイルというと国際マイルを指しますが、米国測量マイルはアメリカ合衆国の公有地測量システムで使用されているそうです。ArcGIS では "statute mile" と言った場合は国際マイルを指すようです。
国際マイルは、1国際マイル = 1760国際ヤード、1国際ヤード = 0.9144m と決められたことに由来します。
陸マイルは米国を自動車で旅する人か、米国で測量に関わる人(そんな人はほとんどいないでしょうが)に関係します。そして 3ミリしか違わないんですね。
そういえばバック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンは時速 88マイルで次元転移装置が発動する設定でしたが、三ツ矢雄二版の吹き替えでは「時速140kmで」と単位も訳して日本人にわかりやすくしてくれてました。これは陸マイルでなければ合わない計算です。(ジゴワットは誤訳ではなく原文の脚本から間違えていたそうです。)
海マイル
日本語では「海里(かいり)」、英語では "nortical mile"(ノーティカル マイル)といいます。これも国際基準以外に米国基準と英国基準、地理マイルがあります。
海マイルは航空機や船舶に関わる際に使うので、陸マイルより海マイルの方が使用頻度が高いでしょう。
マイルの由来
地球は球体なのでその表面の距離を表すのは難しいですが、緯度 1分(周長の 1/21,600)という角距離として表すことで距離の示し方を簡単にしました。経度 1分の長さは緯度によって異なりますが、緯度 1分はどの経線上でもほぼ同じ長さになります。等角コースで大海原を渡っていた大航海時代、地球の角度を元に距離を計算する方が都合が良かったのですね。
10度の緯度と経度の距離の違い
正確には緯度 1分が地表でなす距離を 1シーマイル (sea mile) と呼びます。地球が完全な球体なら計算しやすいのですが、実際は地球の自転の影響で赤道方向に膨らんだ回転楕円体となっています。つまり、地球の中心から地表までの距離は赤道上よりも極地方の方が長くなります。ということは緯度 1分が地表でなす距離も赤道付近よりも極地方の方が長くなります。つまり、1シーマイルの距離は場所によってわずかに異なるということです。厳密には緯度 1分の距離も緯度によって異なります。『新訂 海図の知識』P104 によると以下のようになります。
緯度 | 緯度 1分の長さ |
---|---|
90° | 1861.33m |
60° | 1856.65m |
45° | 1851.99m |
35° | 1848.81m |
30° | 1847.35m |
0° | 1842.73m |
細かい計測も行ってみました。
国際海里と実際に一致するのは南北45度より少し高緯度ということになります。
これだと距離の計算に都合が悪いので、平均値を求めた値を 1マイルと決めました。これ海里(かいり:ノーティカルマイル:nautical mile)といいます。シーマイルに対して陸上で使用されるマイルをランドマイル (land mile) と呼びます。航空機は船舶由来なので国際海里(ノーティカルマイル)を使用します。
国際海里は 1929年にベッセル楕円体の極と赤道の距離の 1 / (90 x 60) で計算されました(注:説明は Wikipedia から引用。極から赤道距離ということは極半径の 1/4 ということになりますが、これだと計算が合いません。赤道半径と極半径の平均で求めた周長の 1/21,600 なら計算上ほぼ一致します)。
1国際海里 | 1,852m |
---|---|
周長(1国際海里 X 60 X 360) | 40,003,200m |
半径(周長 ÷ 2 ÷ 円周率) | 6,366,707.019m |
名称 | ベッセル楕円体 |
---|---|
赤道半径 | 6,377,397.155m |
極半径 | 6,356,078.963m |
偏平率 | 1 / 299.152,815,351,323,3 |
赤道周長 | 40,070,368.10m |
極周長 | 39,936,421.95m |
(赤道周長+極周長)÷ 2 | 40,003,395.025m ※ |
※:ほぼ 1852m を1分とした距離と一致
ベッセル楕円体は近年まで日本の測量に採用されていた準拠楕円体です。
海の世界では地球の測り方である測地系を WGS-84 と定め、その中で地球の大きさ(準拠楕円体)は、WGS-84楕円体となっています。WGS-84楕円体だと赤道半径、極半径、その平均いずれとも異なります。国際海里が決められた時にはまだ WGS-84 は存在しないので当然か。
名称 | WGS-84楕円体 |
---|---|
赤道半径 | 6,378,137m |
極半径 | 6,356,752.31424518m |
偏平率 | 1 / 298.257,223,563 |
赤道周長 | 40,075,016.69m |
極周長 | 39,940,652.74m |
国際海里が緯度1分で計算しているのに対し、地理マイルは赤道の距離に対する 1分で、1924年に 1855.4m と定義されましたが、現在 1855.3250m となっています。
ちなみに、船の速度は時速(km/h)ではなく、ノット(knot, kn, kt)で表しますが、これは1時間に1国際海里進む距離(mile/h)です。なので 1ノット = 1.852km/h となります。
ArcGIS で選択可能なマイル単位
日本はメートル法なので ArcGIS で日本の投影座標系を選択すると距離単位はメートルになりそれ以外を使うことはありませんが、ArcGIS にはいろいろ距離単位を変更することができ、マイルも複数種類選択することができます。
ArcGIS の距離単位(マイル)
コード | 名前 | 略語 | メートル/単位 |
Mile_US | US Survey Mile | miUS | 1609.347219 |
Statute_Mile | マイル | mi | 1609.344 |
Nautical_Mile | Nautical Mile | NM | 1852 |
Nautical_Mile_UK | UK Nautical Mile | NM(UK) | 1853.184 |
Nautical_Mile_US | US Nautical Mile | NM(US) | 1853.248 |
参考・引用
- 『ヨットマン、ボートマンのためのナビゲーション虎の巻』(2009年)P14-P15
- 『新訂 海図の知識』(1996) P104
- Wikipedia