この記事は架空の地図に対する考察です。趣旨が理解できる人だけお読みください。
エースコンバット(AceCombat)とは、いわずとしれたフライトシューティングゲームのシリーズ名ですが、とある友人からこんな質問がありました。
上記のリンクは「エースコンバット」ほぼ全作を通して劇中の戦史&技術史を振り返る。エルジアの無人機はベルカの技術……ってどういうこと?なのですが、この記事に掲載されている世界地図の地図投影法が何かという質問です。
この地図は“ストレンジリアル”と呼ばれる架空の世界で、歴代のエースコンバットシリーズはストレンジリアルの世界で起きている出来事なのだそうです。
ストレンジリアルの世界地図は正距円筒図法
結論からいうと、ストレンジリアルの世界地図は標準緯線が29.5度付近、中央子午線が180度の正距円筒図法です。別名、長方形図法ともいいます。正距円筒図法は、投影法のパラメーターに標準緯線があり、0度の場合が別名、正方形図法になります。
最初は、図郭の縦横比がメルカトル図法やミラー図法とは違うので、アスペクト適応円筒図法かと思い、地図画像のアスペクト比を調べて確認しようとしたのですが、地図をよく見ると緯線と経線が等間隔で描かれているので、あっさり正距円筒図法だと分かりました。緯線経線が描かれていると図法の同定はかなり楽になります。地理学を修めている友人からの質問だったので、普通の図法ではないのかと思ってしまい、難しく考えようとしすぎていました。
ストレンジリアルをジオリファレンスする
あっさりと結論が出てしまい、これだけだと面白くないので、ArcGIS Proでストレンジリアルの地図画像をジオリファレンスしてみました。球の大きさ(準拠楕円体)は地球と同じWGS84を前提としています。
ストレンジリアルの世界地図をよく眺めると、ニュージーランドやグリーンランドそのものの形だったり、ヨーロッパや北米大陸北部(ハドソン湾)に似た形状も見えてきます。また、地図の中心が経度180度になっていて、極東地域の人が作ったと思わせてしまいます。標準緯線付近の緯度は地図の歪みが小さくなるのですが、29.5度付近が設定されているのは舞台の多くが低緯度であることを考慮していたとしたらすばらしいです。
ストレンジリアルを(浅い)地理的見方・考え方で眺めてみる
私がまともにプレイしたことがあるのは「天使とダンスでもしてな!」のCMが懐かしいエースコンバット6だけですが(1,2,3は友人宅で遊んだ)、エースコンバットの戦史によると、6の物語の舞台は中緯度付近で、グリースメリア市は北緯48度付近だそうです。ヨーロッパと同じ緯度帯にはあるものの、アネア大陸の形で西岸海洋性気候はできるのだろうか、とか考えてしまいます。このような、地理として事象をみる捉え方を地理的見方・考え方といい、文部科学省の学習指導要領でも定義されています。
他にも、エースコンバット7の舞台は低緯度地域ですが、先進国であろう舞台背景がこのような地域で生まれるのだろうかとか、いろいろ含むところがありますが、Wikipediaの解説によると、
現実世界とは気候などは大きく異なっている。例えばオーシア連邦の首都オーレッドは赤道付近に存在するものの湿潤大陸性気候であったり、高緯度帯のアネア大陸に砂漠が見られる。
と書かれていたので、深く考えるのを止めました。さすが架空の世界(笑)
ストレンジリアルを地球儀で眺めて考えてみる
ストレンジリアルがジオリファレンスできたので、地球儀にして眺めてみます。これもArcGIS Proなら簡単に変換できます。
地球儀をアニメーションで回転させてみました。しばらく眺めていると両極の様子も確認できます。
地図の視点で捉えた違和感
ストレンジリアルはいろいろと"奇妙”ではありますが、特に大きな違和感がある点を2つ挙げてみます。
南極大陸の形が不自然
ストレンジリアルを正距円筒図法の世界地図で眺めただけでは不自然さは感じませんでしたが、地球儀で眺めると南極大陸の形が不自然で大きな違和感を覚えます。湾の 入り込み具合や半島の出っ張り具合が極端に引き延ばされたように見えます。
陸地がないところに本初子午線(経度0度)が設定されている
赤道(緯度0度)は自然現象を観測から定義できますが、本初子午線(経度0度)は人為的に決めることしかできません。人為的に決めるためには、観測できる場所が必要なので、本初子午線状には陸地が必要なはずですが、なぜかすべて海上を通っています。ユージア大陸の北東にある島の東端が経度0度といえなくもなさそうです。島の岬には天文台があるのでしょうか。子午線状すべてが海上だと、地図の図郭線としては好都合です。
メルカトル図法で眺めてみる
最後はみんな大好きメルカトル図法で表示しています。地球の場合、南米大陸と南極大陸は南緯60度で分断できるので、南緯60度以南は省略して描かれることが多く、メルカトル図法で南極大陸を描くとかなりいびつな形になることを知らない人がいるかもしれません。ストレンジリアルは南オーシア大陸と南極大陸がそれぞれ南北に食い込んでいるので、南極大陸をうまく切り取れる緯度がありません。
まとめ
エースコンバットの世界観であるストレンジリアルを地球儀で眺めたり、いろんな地図投影法で眺めたりしてみました。
このような架空の地図を空想地図といい、タモリ倶楽部でも特集されたマニアックな分野ですが、一定のファン層がいる、今や認知された領域です。空想地図作家さんのお話を伺ったり、本を読んだりすると、架空の地図とはいえ、道路の幅や建物の大きさなどの地物がファンタジーにならないよう、リアルに描かれているそうです。リアルに描くためには、全国各地に赴いたりして、地図感覚を養っているそうです。
私は空想地図作家ではありませんが、正距円筒図法のストレンジリアルを地球儀で表現してみて、架空の世界地図を創造するなら、きちんと丸い地球儀に表現して確認した方がよいことが分かりました。多くの人は地球が丸いことは知識として知っていても、正しく理解はされていないです。それは、普段円筒図法の世界地図しか見ていないからで、高緯度の地域を地球儀で眺めると形が大きく違うことになるとは想像しにくいのです。
地図学以外にも、仮想大陸から考える気候学や、プレートテクトニクスなど地理学・地学の幅広い知識が必要になりますね。
ドラマや映画のエンドロールで時代考証やSF考証という言葉を見かけますが、地理考証も大切で、最近は専門家へ依頼されるケースもあるそうです。
中の人のマーケティングで締めますが、ArcGIS Proなら図法の同定作業が10分、地図の位置合わせが5分、地球儀への変換が5秒で操作できます。