ミラー図法とメルカトル図法はよく間違われる
最近、マンデラ効果という言葉を知り、地図にまつわるマンデラ効果として、ミラー図法をメルカトル図法と勘違いしている人が多いことをツイートしました。
学校の授業で「ミラー図法」を「メルカトル図法」と比較した特性を教えている先生はほとんどいないでしょうから、円筒図法はすべて「メルカトル図法」だと間違った認識をしてしまうのは仕方がないと考えます。ミラー図法とメルカトル図法は本当によく混同されているのですが、最近、その間違いを助長する原因の一つに気づきました。
書籍やニュース記事に使われる世界地図の主題図で、希にこのような地図が使われているのを目にします。この地図の形は、世界地図の素材として検索すると、複数確認できます。
この地図は何図法でしょうか。
緯線・経線が入っていない地図で図法を判断するのは難しいですが、おそらく円筒図法で、認知度や使用頻度の高さを考慮すると、メルカトル図法かミラー図法のいずれかだと考えるでしょう。
私は、メルカトル図法とミラー図法のいずれかを判断する方法として、以下を参考にしています。
- グリーンランドの大きさと縦横比(アフリカ大陸より大きいか、小さいか)
- ユーラシア大陸の南北の長さ
- タイミル半島の形
タイミル半島は、名探偵コナンでもしばしばネタにされる #蘭姉ちゃんの角 になぞらえて比較したことがあります。
もちろん、円筒図法にはこの他に正距円筒図法やゴール図法、パターソン図法などたくさんあるので一概には判断できません。
ジオリファレンスで検証
GISソフトウェアを使って正しい世界地図と重ねて比較してみます。ジオリファレンスという機能を使うと、GISソフトのマップ上に位置情報が含まれていない画像を正しい位置関係で位置合わせすることができます。ここでは、元の画像の歪み修正はしないように、伸縮と平行移動のみを行いました。地図の中心は東経165度に設定しています。
比較すると、大陸はメルカトル図法のようですが、グリーランドと北極圏にあるカナダ、ロシア、ノルウェーの島嶼部はミラー図法のようです。ロシアやノルウェーの島嶼部はグリーランドとの相対的な位置はずれている、という結果になりました。
また、大陸に対するグリーンランドの位置も異なっています。仮にデザイナーが作った独自の図法であったとしても、円筒図法であることは間違いないでしょう。そうすると、グリーンランドの南端は北緯60度なので、ハドソン湾の東にあるアンガヴァ半島の付け根よりも南(地図上の下)に位置していないとおかしいですし、アイスランドよりも南に位置していなければなりません。
書籍の差し込み図に使われる地図は、必ずしも地図の専門家が作成している訳ではなく、デザインの専門家(Adobe Illustrator の扱いを得意とする人達)が作成してしているようです。それらの人達が必ずしもGISデータからGISソフトウェアで地図化しているとは考えにくく、多くの場合、イラスト素材(Google画像検索結果やAdobe Stockの検索結果)のサイトから調達して加工していると考えられます。
グラフィック ソフト上で複数のグラフィックを切り貼りすれば、このような地図は簡単に作れます。中には、組版上図の収まりがよいように上記の問題提起した地図を平行に引き伸ばしている書籍も見たことがあります。
まとめ
今回話題にした、メルカトル図法とミラー図法を混合して配置した地図デザインのオリジナルがどこにあるのかまでは突き止めませんでしたが、誰かが作ったベクターデータをそのまま再加工して公開し、その素材をデザイナーが利用することで、広がっているのは事実です。
このような指摘をすると「些細な問題に目くじらをたてて、、、地図ポリスが」と言われることもありますが、これは些細な問題だとは思いません。日本人にとってグリーンランドの位置関係が間違っても不快に思う人は少ないでしょうが、日本の位置がずれていても同じことが言えるでしょうか。
間違うことは仕方がないですが、間違いかどうかを判断できる知識は身につけたいものです。
拙著『地図リテラシー入門』の差し込み図はすべて著者自身が作成し、SVG形式にしてデザイナーに提供しました。デザインはほぼそのまま使用されているので、問題があったら著者の責任です。