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日本の天気図に使われている地図投影法

2021/5/15 (土)

はじめに

天気図とは、気象現象を把握するために、天気や気温、等圧線などを描いた地図で、主題図の 1つに分類されます。等圧線とは同じ気圧の場所を線で結んだものですが、気圧は標高が高くなるほど下がるので、普段見る天気図に描かれた等圧線は、標高 0mと仮定した気圧が描かれています。

天気図を見ていると、インターネットでよく見かけるメルカトル図法とは地図の形が違います。メルカトル図法は経線が上下に平行に描かれていますが、天気図では経線が末広がりになっています。長年、天気図に使われている地図投影法が何なのか気になっていたので調べてみました。

文献による説明

文献によると、次のように書かれていました。

『指導のための地図の理解』

われわれが新聞・テレビなどでいつも見ている天気図は緯度60°N、緯度 30°N の両緯線を2標準緯線とし、ランベルト正角円錐図法によって投影したものである(図6-57)*。この図を描くときの基礎になった数値を (6.109) から求めたものが表6-12である。

この表を吟味してみると、地球上で緯度差 5°の長さは 555km であるから、図は 2 つの標準緯線にはさまれた部分では長さは経線方向にも緯線方向にもやや縮まっており、60°N よりも低緯度側では、長さは経線方向にも緯線方向にも伸びていること(拡大していること)がわかる。

* 1937年、国際気象学会の天気図投影法委員会は中緯度地方の天気図は 60°N、30°N の両緯線を標準緯線とするランベルト正角円錐図法で描くことを勧告し、世界の多くの国がそれに従っている。ちなみに同委員会は緯度30°よりも低緯度地方の天気図はメルカトル図法により、緯度60°よりも高緯度地方の天気図は平射図法(正軸法)に描くことを勧告している。

野村正七 (1974)『指導のための地図の理解』中共出版、p.214
『指導のための地図の理解』中共出版、p.214 より(※注:表は 6-12 の誤植と思われる)

『地図投影法』

地図投影法

政春尋志
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また、風向きのように各点における方向を表すことが重要な図では、正角図法を用いなければならない。このような図の例としては、天気図(図9.1)、地殻変動ベクトル図(図9.2)がある。日本周辺の天気図には(正軸法の)平射図法、地殻変動ベクトル図にはメルカトル図法が用いられることが多い。

政春尋志 (2011)『地図投影法』朝倉書店、p.190

天気図は角度が重要なので、正角図法で示す必要があり、ランベルト正角円錐図法平射図法が使われているということが分かりました。平射図法は、普通、平射方位図法を意味します。英語で stereographic projection というので、そのままステレオグラフィック図法やステレオ図法とも呼ばれています。

地図投影法のパラメーター

地図投影法は分かったのですが、この情報だけでは地図として表現できません。具体的なパラメーターが必要です。

『指導のための地図の理解』にはパラメーターが示されていましたが、『地図投影法』の文献には平射図法のパラメーターまで示されていなかったので、気象庁の資料を参考にパラメーターを推察しました。

この図は、北緯 60 度、東経 140 度を基準としたポーラーステレオ図法で投影している。本書では、SVG 形式天気図情報のデータ構造を「全体構成」「各部の構成と内容」「画像例」に分けて解説を行う。

気象庁「配信資料に関する技術情報(気象編)第 395 号」別紙1 SVG 形式天気図情報の解説

注:「ポーラーステレオ図法」とは、「極心平射図法」ともいい、標準緯線が極(緯度90度)に設定された「平射図法」です。この解説は「ポーラーステレオ図法=弊社図法」と誤解しているものと思われます。

47.3.6
標準緯線 60 度の平射図法による地図上の,又は標準緯線 30,60 度又は 10,40 度の正角円錐図法による地図上の直交格子を表すとき,その原点を極の直交座標によって示す場合は,1,6,9 及び0-群 7iiii sxjjjj 群を用い,また原点を地理座標で示す場合は,1,6,9 及び0-群と 88LaLaLaQcLoLoLoLo群を用いる。

気象庁「国際気象通報式

これらの情報を元に作った地図がこちらです。

地図投影法:ランベルト正角円錐図法
中央子午線:東経140度
第1標準緯線:北緯30度
第2標準緯線:北緯60度
地図投影法:ランベルト正角円錐図法
中央子午線:東経140度
第1標準緯線:北緯10度
第2標準緯線:北緯40度
地図投影法:平射図法
中央子午線:東経140度
原点の緯度:北緯60度
地図投影法:ランベルト正角円錐図法
中央子午線:東経135度
第1標準緯線:北緯30度
第2標準緯線:北緯60度
『指導のための地図の理解』図6-57 を再現

気象庁の天気図は、上記のいずれとも違うようです。

天気図に使われている地図投影法とパラメーター

実際の気象庁天気図の画像を元に、投影法のパラメーターを変更しながら調べると、東経130度と東経150度の経線の角度から、以下のパラメーターを使っていることが分かりました。

地図投影法:平射図法 (stereographic projection)
中央子午線:東経140度
原点の緯度:北緯90度
地図投影法:平射図法
中央子午線:東経140度
原点の緯度:北緯90度
気象庁の天気図(2021年4月1日)

原点の緯度を極に据えた平射図法を特に極心平射図法(ポーラーステレオ図法)ともいいます。アジア地域も含めた実況天気図でも同じ図法が使用されています。気象庁の天気予報天気分布予報はメルカトル図法で、黄砂情報は正方形図法でした。

ちなみに、日本気象協会実況天気図は、経線の角度や経線の間隔が微妙に異なっているので、上記のパラメーターとは異なるようです。揃っていないんですね。

日本気象協会 実況天気図(2021年4月1日)

絵だけで地図投影法を同定するのはとても難しい。

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