流線図とは
流線図とはフローマップ (flow map) ともいい、統計事象の移動を図示したものです。流線図は、移動の経路と移動量とを同時に示すのが目的で、コロプレス図のような統計地図が統計値とその所在を表現することを意図するものとは異なります。(野村, 1974)
地図帳の後ろに描かれていた主題図のうち、矢印とその太さで示されていたあれです。
また、航空機の就航図でも似たような地図が描かれています。
今回は、この流線図を ArcGIS でできる限り機械的にこり強く作成する方法を考えます。
作成方法
操作手順は以下の流れとなります。
- ラインを作成するための始点座標と終点座標をもったテーブルを作成
- テーブルから、[XY 座標 → ライン (XY to Line)] ツールでラインを作成
- ラインを作成する処理で、測地線(最短距離)を指定
- ラインの始点座標と終点座標を持ったテーブルを作成します。データ処理にはテーブルがあれば良いのですが、テーブルに入力する XY座標はポイントから作成するのが容易です。今回は、Natural Earth で公開されている主要都市のポイント シェープファイルを使用しました。
- ArcGIS Pro を起動し、フィールド演算で、「始点X座標」「始点Y座標」「終点X座標」「終点Y座標」を格納するための Double 型フィールドを作成します。
- 作成したフィールドに、[ジオメトリ 演算] メニューから [ジオメトリ属性の計算] ツールを起動して XY 座標を割り当てます。
- 始点のXY座標には、開始点となる座標をフィールド演算で入力します。今回は東京から各国首都へのラインを描きたいので、東京の XY 座標をコピーして割り当てます。
- 始点XY座標、終点XY座標を持ったテーブルが作成できたら [XY座標 → ライン (XY to Line)] ツールでライン フィーチャクラスを作成します。[ライン タイプ] に「測地線」を指定します。
以上で処理は完了です。
完成図
メルカトル図法上では「等角航路」を指定すると 2点間は直線になりますが、「測地線」を指定するとなめらかな曲線となります。測地線を指定することで流線図の原型となるなめらかな曲線が描けました。地図の見た目を良くするには、地図の中央子午線と始点を一致させるように設定するのがベターです。
東京のように中高緯度から各地域へまばらに線を描けばそれなりの見栄えになりますが、赤道付近から線を引くと最短経路が極を超えるため、測地線では見た目の良い図にはなりません。
また、日本全国のように狭い範囲になると、等角航路と測地線との違いがよく分かりません。測地線は狭い範囲だとなめらかな曲線にならないのです。
まとめ
今回作成したツールでは、必ずしも見た目が良い地図にはなりませんでしたが、以下の条件を満たせばこの処理でもそれなりの見た目になります。
- ラインのフィーチャ数がまばら
- 始点が中~高緯度
- 始点を地図の中心に表示する
ArcMap でも同じ処理ができます。地図帳の地図はカートグラファーという職人の技なので、GIS で誰でも簡単に見た目の良い主題図を作る、というのは正直にいうと難しいです。実際に下の流線図は最短距離ではなく、いい感じに手書き(実際は最終形態が Adobe Illustrator という場合が多い)で線を曲げて描いています。
では、GIS が手書きの地図に全く劣るのかというとそんなことはありません。今回作成した線分は「測地線」という規則に従って描いたもので、あくまで最短の経路を描いただけです。測地線とは別の規則に基づいた見た目の良い線分が引ければ良いのです。GIS は「属性」に基づいて「ルール」によって描画することが基本なので、たとえば線の太さを属性値で決めれば更新が容易です。手書きだとひとつずつ書き直しとなり、作業が面倒です。地図投影法が簡単に変更できるのも GIS の利点です。
次回は測地線とは別の仕組みで曲線を描く方法を考えます。
つづく
使用データ・ツール
- Natural Earth Populated Places(世界の主要都市から首都のみを抽出して使用)
- [ジオメトリ属性の追加 (Add Geometry Attribute)] ツール
- [フィールド演算 (Calculate Field)] ツール
- [XY 座標 → ライン (XY To Line)] ツール