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グード図法で地図投影法のパラメーターを考える

2020/1/22 (水)

グード図法の中央子午線と断裂区域

2つの地図投影法を接合するとどうなるか

「グード図法はサンソン図法とモルワイデ図法を緯度40度44分(40.73666度)で接合する」の説明通りに操作すると、このような地図になるはずです。

サンソン図法+モルワイデ図法

サンソン図法+モルワイデ図法(黒線は緯度40度44分)

これは断裂ホモロサインではなく、ただのホモロサインです。

地図投影法は投影法の種類とパラメーターで構成される

ここでタイトルの地図投影法パラメーターに話が繋がります。「グード図法は緯度40度44分でサンソン図法とモルワイデ図法を接合している」の説明にはもう少し補足説明が必要なのです。

地図投影とは、緯度経度を何らかの式で XY座標に置き換えることで、つまり関数です。使用する地図投影法によって関数の式は異なります。関数には変数があり、必ず使用する「緯度」と「経度」以外に、地図投影法固有の変数があります。GISソフトウェアでは、固有の変数を「投影法のパラメーター」として指定します。ArcGIS では、サンソン図法とモルワイデ図法に定義されている投影法のパラメーターは 3種類あります(距離単位は日本だとメートルなのでここでは除外とします)。

サンソン図法のパラメーター

サンソン図法のパラメーター

  • 東距 (false easting)
  • 北距 (false northing)
  • 中央子午線 (central meridian)

「東距」と「北距」は「原点シフト」ともいい、(X,Y) = (0,0) になる場所の座標を便宜上別の座標に移動させるものです。東距と北距が使われている最も有名な座標系が UTM座標系で、UTM座標系の投影法である横メルカトル図法で東距と北距が使用されています。UTM座標系では原点の座標をプラスにシフトさせて、地球上で座標が必ず正の値になるように定義されています。サンソン図法やモルワイデ図法では原点シフトする必要性はないので、意図しない限り既定値のまま 0 を使用します。

「中央子午線」(「中央経線」ともいいます)は、地図の中心に表示される経度を指定する値です。欧米にとっては経度0度(標準時子午線)を中央にするのが一般的なので 0 のままで構いませんが、日本にとっては、太平洋を中心にした方が都合が良いので、たいてい中央子午線に東経160度を指定して大西洋で分断させます。

中央子午線の値を変更することで、中心に表示される地図の場所が変更できます。中央子午線に近いほど、形状のひずみが抑えられます。

また、地図投影法のパラメーターは、地図投影法によってさまざまな種類があり、正距方位図法だと中心の緯度経度を指定します。

断裂図法でひずみを抑える

グード図法を作ったグードは、地図のひずみを抑えるためにある画期的な方法を考えました。野村正七著『指導のための地図の理解』(1974) P167 に以下の記述があります。

サンソン図法もモルワイデ図法も、もともと中央子午線は 1つであり、しかも角のひずみは両図法とも同一緯度では中央子午線上において最も少ない。グードはこの事実に着目し、中央子午線を必要な数だけ設定し、それによってユーラシア大陸、アメリカ大陸、アフリカ大陸などの陸地の形のひずみが少なく表されるようにした。

これを断裂図といいます。グード図法では 6種の中央子午線と断裂線が定義されており、地図の左から以下のとおりです。

  • 中央子午線
    • 北半球:西経100度、東経30度
    • 南半球:西経160度、西経60度、東経20度、東経140度
  • 断裂線
    • 北半球:西経(東経)180度、西経40度
    • 南半球:西経(東経)180度、西経100度、西経20度、東経80度

地図投影法とそのパラメーターが異なる範囲を色分けすると以下のようになります。

グード図法の中央子午線と断裂区域

グード図法の中央子午線と断裂区域

中央子午線ごとに分割すると以下のようになります。「断裂していない」ホモロサイン図法と、サンソン図法、モルワイデ図法それぞれで表現しました。

 

上記の定義だとグリーンランドとロシアの東端チュクチ半島が断裂してしまうので、地図によっては隣のパラメーターを適用して島や大陸が断裂しないように表現されています。

普通 1つの擬円筒図法に対して直線となる子午線は 1つしかないのですが、グード図法は直線のなる子午線が 6つあるのはこのためです。

断裂図法は緯度経度が分かる線を描かなければならない

断裂図の表現では必ず経緯度の格子を描くよう気をつけてください。経緯度が描かれていないと、大陸間は広い海が横たわり、グリーンランドや南極大陸が分かれて存在していると誤解されてしまいます。

グード図法(経緯度線未記入)

グード図法(経緯度線未記入)

他のグード図法

大陸部分を断裂させて、海洋部分を接合させたグード図法もあります。この図ではユーラシア大陸で断裂されているため日本のひずみは緩くなっています。「スベルドロップの海洋図」とも呼ばれたりしますが、いずれの地図も投影法としてはグード図法と呼ぶべきと政治氏は指摘しています (政春,2001c)。

グード図法(海洋)

グード図法(海洋)

断裂図法は他に「断裂サンソン図法」や「断裂モルワイデ図法」もあります(野村,1974)。

それでも日本はひずんでいる

改めてグード図法をみてみましょう。断裂図法を使ってひずみを抑えたと言いますが、日本はひずんでいるように見えます。

グード図法

グード図法

その理由は、同所 野村正七書『指導のための地図の理解』(1974) P167 に書かれていました。

~しかも図中に記入しなければならぬ事項の多いヨーロッパをできるだけひずみ少なく描こうという意図から、東アジアや東南アジアのひずみは大きくなることを無視している。

なるほど、極東のひずみは諦められたのですね。これは「そういう仕様」と割り切るしかありません。野村氏によると、ユーラシア大陸の中央経線としては東経80度~90度が適当と説明しています。欧米人が作成したので、欧米がひずみなく表示されていれば問題視されなかったのでしょう。

試しに中央子午線を東経80度に設定した図を作成してみました。これなら欧州を含め、東アジア、東南アジアもひずみが少なく表現できています。

極東にも適した断裂ホモロサイン図法

ネットで調べると、東アジアや東南アジアでもひずんでいない断裂ホモロサイン図法がみつかりました。この試験問題は中央子午線が示されていてかなり親切です。北半球の東経側は東経70度を中央子午線にしています。ちなみにこの地図もグード図法というのかは不明です。

極東に適した断裂ホモロサイン図法

極東にも適した断裂ホモロサイン図法(引用

投影法のパラメーターは地図の左から以下のとおりです。

  • 中央子午線
    • 北半球:東経70度、西経100度
    • 南半球:東経20度、東経140度、西経70度
  • 断裂線
    • 北半球:西経30度、西経170度
    • 南半球:西経30度、西経80度、西経110度

ArcGIS のグード図法サポート

ArcGIS はグード図法をサポートしています。投影法のパラメーターを変更することで、大陸中心、海洋中心には表示でき、グード図法の断裂で、中央子午線をシフトさせることはできます。しかしグード図法を構成する個々の投影法のパラメーターを個別に調整することはできません。そのあめ、上記のような極東向けのホモロサイン図法は現在のところ作成できません。

まとめ

まとめです。高校の時に感じた疑問の答えはこのようになりました。

  • 極に近づくほど、サンソン図法は急激に歪むのに対して、モルワイデ図法が緩やかなのは分かるが、それならモルワイデ図法だけで海を断裂させればいいんじゃないの?
    →モルワイデ図法は縮尺に対して中央子午線と緯線長が緯度40度44分を除いて正しくない。サンソン図法とモルワイデ図法を同一縮尺で表示すると違いがよく分かる。
  • サンソン図法もモルワイデ図法も、地図の端の形は相当歪んでいる。その歪んだ地図を貼り合わせても歪むんじゃないの?実際、グード図法の日本付近はかなり歪んでるので、形が正しくなったとは思えない。
    →中央子午線を複数定義した断裂図とすることでひずみが解消でき、グード図法はこれを目指したが、仕様によりユーラシア大陸の中央子午線は西寄りなため、東アジア、東南アジアはひずむ。

参考文献

地図投影法

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政春尋志
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使用データ

  • この記事を書いた人

羽田 康祐

伊達と酔狂のGISエンジニア。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、潜水士、PADIダイブマスター、四アマ。WordPress は 2.1 からのユーザーで歴だけは長い。 代表著書『"地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 GIS を使った自己紹介はこちら。ESRIジャパン(株)所属、元青山学院大学非常勤講師を兼務。日本地図学会第31期常任委員。発言は個人の見解です。

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