はじめに
地理の資料集や地図学の図説などで一度は見たことがあるであろう、この顔。
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- 初出は何なのか
- あの顔に名前はあるのか
ずっと気になっていました。はじめて意識したのは高校生のときで、資料集に載っていました。
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やや専門家向けの図説にも掲載されています。
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最近になってもう一度資料集を読み返すと、とうほうの資料集に「昭和3年 旧海軍省水路部」と出典が書かれていたことに気づきました。
海外でも同じパターンの解説がツイートされています。
さらに、掲載されている文献を教えていただきました。
Deets, C. H. etc.(1921): Elements of map projection with applications to map and chart construction, Sp. Pub. No. 68, U.S. Coast and Geodetic Survey
1920年代のアメリカ国家測地測量局までさかのぼることができました。この時点でスキンヘッドのおじさんを使った図は2パターンが存在していることが分かりました。
- 3種類の方位図法+(メルカトル図法)に描かれるパターン
- 円筒図法(擬円筒図法を含む)に描かれるパターン
スキンヘッドおじさんの名前はまだ分かっていません。
そして最近、正面顔バージョンがあることを知りました。出展は不明ですが、大正時代の地図の本だそうです。
上記は廃止になった用語が使われているので、現在の名称に置き換えます。
- ボンヌ氏図法 → ボンヌ図法
- 圓錐投射法 → 投射円錐図法(具体的な図法は不明)
- サンソン.フラムスチード氏図法 → サンソン図法
- 似球投射法 → 球状図法
- 平射投影法 → 平射図法
- 圓柱投射法 → 円筒図法(たぶん図はメルカトル図法)
ツイートには「いろんな図法でやってほしい」と書かれていたり、コメントにも「分かりやすい!」と書かれていたので、ほじゃワシもやったろうじゃん!ということで作ってみました。
人の顔を地図投影法で変形させてみた
わたくしは2020年8月に多発性の円形脱毛症を発症してしまい、長らく髪の毛を剃っていました。最近はだいぶ元に戻ったのですが、現時点で元太くん状態です(各所で使用している写真はイメージです)。頭を丸めていたときの写真を撮っていたので、身を切って逆境を活かすことにしました。横顔を撮っていなかったのが痛恨です。
歪みのない写真はどの投影法で合わせるのが正解か
元の写真をある図法の地図に重ね、投影法を変換して歪ませる訳ですが、元の図法は何を使えばよいのかずっと疑問に思っていました。持っている文献を精査すると、モルワイデ図法と平射図法に大別できるようです。
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しかし、私は、宇宙から眺めた地球、つまり地球儀を見たときの見た目が一番歪みのないと状態と考えるのが妥当だと思います。宇宙から見たときの地球の姿に等しいのは外射図法です。
モルワイデ図法や平射図法は元々歪んでいるのだから、歪んだ図形を歪ませたら余計に歪むでしょうという考えです。今回は、外射図法に貼り付けた顔を、いろんな図法で歪ませてみます。
地図の上に顔写真を重ねる
この辺は GIS の得意分野です。ジオリファレンスという機能で、位置情報を持っていない画像ファイルを地球上に位置合わせすることができます。
緯線・経線のデータを ArcGIS Pro 上に表示し、外射図法で投影します。
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投影変換
ArcGIS Pro のオンザフライ投影変換機能で、さまざまな図法に投影変換してみます。元のデータをそのままに見た目上の投影変換ができるのも GIS ソフトが得意とするところです。
地図投影法
作成したのがこちら。よく見る図法に絞りました。
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まとめ
今回試した顔写真を地図投影することで、よく見る世界地図がいかに歪んでいるのかが、よく分かりました。
注目したいのは右顎部分です。元の写真では顎の形(トリミング)はさほど非対称になっていませんが、他の図法に投影すると、少しの出っ張りがかなり強調されています。特にメルカトル図法だと顎が顕著に飛び出しています。これは、地図だとロシア中央北部にあるタイミル半島が代表例といってよいでしょう。
メルカトル図法でみたときのタイミル半島を、私は通称「蘭姉ちゃんの角」と呼んでいます。原作でももはや普通に描かれていますが、元々普通ではなかったんです。メルカトル図法で描かれたタイミル半島も不自然なのです。